空想癖人のわや日記 ―５９２７新刊小説サンプル。

５９２７新刊小説サンプル。

←「耳鳴り」の裏表紙。

最初の過去話の小説サンプルをちらりと。
特にタイトルは無いです。無題。
もしよかったら覗いてみて下さいませ。

―――どこ。
―――どこ。
―――どこにあるの。
―――〈それ〉は―――

「日本へ？」
初めて会った時から変わらない、穏やかな表情で老人は目の前の少年を見つめる。
「あぁ、日本へ。是非、君に行ってもらいたいのだよ―――獄寺隼人君」
少年――獄寺隼人もまた、自身が最も敬意を抱いている目の前の老人を注意深く見つめた。
しかしまだ十四歳、悔しくも子どもと呼ばれる彼には、老人の真意を見抜くことなど出来なかった。そもそも、真意など何も無いようなその穏やかな瞳に、獄寺は思考を中断する。
「もちろんですが…九代目。日本でオレは何を…？」
九代目――目の前の老人こそ、一匹狼だった彼を唯一認め、そしてイタリア最大のマフィア組織、ボンゴレファミリーにスカウトした当人。ボンゴレファミリーボス、ボンゴレ九代目。
獄寺は自身のボスを見つめ、ただ次の言葉を待った。
いつもの指令なら、手紙などの通達で済むものが、今日は九代目から直々に呼ばれたのだ。ただ顔を見に、という理由で度々面会することはあったが、指令を含めての面会は初めてであった。
ボンゴレにとって、自分にとって重要な任務なのだろうか、と少なからず身構える。
「君は、リボーンのことを知っているかい」
「え？」
予想外の名に多少戸惑いつつ、獄寺は頷いた。
マフィアの世界にいる者なら、おそらく知らない者はいないであろうと言われるほどの人物。呪われた赤ん坊、アルコバレーノの一人。
「九代目が最も信頼している殺し屋――ですよね」
老人はゆっくりと頷く。
「会ったことはあるかい」
「いえ…」
自分など、会える立場でもない。
「彼が今、日本にいることは？」
「…知っています」
あのリボーンが日本へ―――。次期ボンゴレのボスになる十代目の家庭教師として、というのはボンゴレ内の人間なら誰もが知っていることである。
獄寺は自分の考えを口にする。
「オレに二人の護衛をしろ、…と？」
リボーンほどの実力者、ましてや次期十代目となる人物に、自分などが必要なのか。
その答に、ゆっくりと首を振る老人に疑問だけが浮ぶ。
「では―――」
何故自分が。
「私が選ぶ彼はね、君と同い年なのだよ。そのことは？」
「ぇ―――」
その反応に、老人の笑みが深まる。しかし、獄寺の視界にそれは映らない。
幼い、とは聞いていた。幼く、まだ子どもだと。だから単純に、自分よりは年下なのだと思っていたが―――同い年。十四歳。マフィアでは充分に働ける年齢である。
――オレと…同じ――。
何かが湧き上がる衝動に、強く拳を握る。
期待なのか落胆なのか、怒りなのか喜びなのか、獄寺自身にもわからなかった。ただ、ただ――会ってみたい。
「沢田綱吉」
ピクリ、と獄寺の体が反応する。ようやく焦点が老人へと合わさる。
―――サワダ…ツナヨシ―――。
「これは、リボーンの要請でもある」
「…リボーン…さん、の？」
「だがそれ以前に、私が、君を、推薦した」
強みを増した視線を、獄寺はただ見つめ返す。
―――二年前。ボンゴレファミリーにスカウトされたのも九代目自らの誘いであった。知らなかったとは言え、ジジイ呼ばわりした上に暴言を吐き、自らの非力さ、弱さ、身勝手さ、そんな部分を見せたにも係わらず、それを知った上で九代目は獄寺をスカウトした。
そして今、次期十代目となる重要人物のもとへと自分を推薦してくれる意図が、獄寺にはわからなかった。
初めの時のように、ただ認められたことが嬉しいと安易に喜ぶには、今回の話は単純ではないことを理解していた。
「…それで、オレは何をすれば」
肝心な事を思い出し、先程と同じ質問を口にする。
しかし、老人はただ黙って、目の前の少年を見つめた。

つづく。

2010/Sep
09
Thursday
22:30:52 Comment(0)
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リボ

▲ 〆

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空想癖人のわや日記

日々の日常、小さなオツムで思うこと。

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