SW本5冊目来月発行します!以下、詳しい情報です。
◆「サマーバケーション」⇒P28 A5 50g ¥300 です。
真悟視点のカズケン本。
未来カズケンに真悟とその友人とをからませた話。
友人二人は名前がありますので、オリキャラとなります。
真悟は中学3年で、以前出したSW本2冊目の「最愛の他人」のカズケンのその後設定ですが、単品でも読めますのでご安心下さい。
因みに泊屋の独断と偏見で、今回祐平は真悟と同い年設定となってます。(あんまり出てないけど)
そんなSW本5冊目は真悟の友情ネタです。
手描きのおまけシールつき。ランダムで入っておりますのでご了承下さいませ。
「よぉ、陣内」
騒ついている教室の中、気に入らないクラスメイトが、案の定気に入らないニヤけた顔で、自分を見下ろしていた。
それを隠すこともなく見上げると、相手は更にその笑みを増した。
視界に入れたことに内心で舌打ちをし、視線を外そうとした瞬間、相手が吐き出した言葉に一気に体の熱が上昇する。
「お前んとこの親戚に、ホモがいるってホントかよ」
その薄ら笑いに、気付けば相手の胸倉を掴み、拳を振り上げていた。
続けてきた衝撃と痛みには、後悔の念など欠片もなかった。
『ダメ』
パソコン画面の向こうで、目の前にいる健二ではなく、その後ろで洗ったばかりの髪をタオルで拭いている褐色の青年が言い放つ。
「佳主馬兄には聞いてない…」
『何だって?』
小声だったはずなのに、鋭い視線から真悟は直ぐ様目を逸らす。
『ただでさえ今年は三人の受験生で、健二さんの時間が潰されるってゆーのに』
特にお前な真悟、と付け加えた声に、うっ、と言葉を詰まらせる。
『あと二人追加だなんて、こっちはボランティアじゃないんだ』
呆れたような冷めたような視線を向けられ、真悟は口を尖らせながらキーボードの横に置いてある麦茶の中の氷を眺めた。
「…べつに…上田じゃなくても…」
『はあ?』
「………」
やはり無理だっただろうかと、諦めかけた時、救世主の声に真悟は勢いよく顔を上げる。
『佳主馬くん、僕はかまわないよ。それに受験生って気持ち的にすごく不安なんだからさ、僕でいいなら力になりたいよ』
『健二さんっ』
眉を寄せ、声を上げる佳主馬とは正反対の表情で、真悟は画面に身を乗り出す。
「俺の大事な友達なんだっ、一日だけでいいっ、そっちにあわせるし、家に泊まってもいいからっ」
唯一の望みに声を大きくすれば、健二は少し驚いたようにぱちぱちと瞬きをし、そしてにっこりと笑い後ろを向く。
『佳主馬くん、上田の前に、松本市に行くのもいいじゃない?真悟くんもいい、って言ってくれてるし、お邪魔しようよ』
『なっ』
『僕行ってみたい』
『っ―――』
そういわれると弱いのか、眉間にしわを寄せ、口を半開きの状態で固まっている佳主馬は、長い沈黙の後、その口で盛大なため息を吐いた。
『………………わかった』
よしっ、と見えない机の下で拳を作ると、濡れたままの前髪から鋭い視線とぶつかり、緩んでいた表情も引きつってしまった。
『…真悟』
「ぁ…はい」
『とりあえず、一泊二日の予定でそっちには行くけど、お前の家には泊まらない』
「え…家はいいぜ?父さんたちも――」
『バカ。大の大人が二人も迷惑だ。俺たちは近くのホテルでも取る』
「あーうん、わかった。言っとく」
内心で少し残念に思いながらも、上田でも過ごせるのだと思い直す。
『まぁ、日時はまた近くなってから言うよ』
「わかった。ありがと、佳主馬兄」
そして微笑ましく笑っていた健二にも礼を言う。健二がいなければ、佳主馬の了解など得られなかったのだ。それに健二に言えば、佳主馬が折れることを陣内家一同心得ているため、それを自覚している佳主馬の不機嫌な視線も流して真悟は喜んだ。
「ありがとっ。それから家庭教師よろしく、健二――」
しかし鋭い視線を感じ、真悟は言葉を付け足す。
「……さん」
それを可笑しそうに笑う健二に、気を取り直しへらへらと笑いかける。
幼い頃から呼び捨てにしていた真悟たちには、慣れるまで違和感はあったものの、今では未成年組も皆、『健二兄』『健兄』と呼ぶようになった―――より、させられた、が正しいだろう。それでもやはり大人組の影響で、佳主馬のいないところでは呼び捨てになってしまうこともある。
「それじゃ」
『うん、おやすみ』
互いに挨拶を交わしログアウトすると、真悟はそのまま携帯を開き二人の友人にメールを送った。その顔には自然と笑みが浮ぶ。
この浮き足立つような気持ちは夏のせいだろうか、それとも、しがみつきたいと思えるほどの友情を確信したからだろうか。
中学最後の夏休みが、ひどく待ち遠しかった。
つづく