SW本6冊目、以下詳しい情報です。
◆「十二ヶ月」⇒P44 A5 80g ¥500 です。
カズケン本。
春、健二(高3)のクラスに転入してくる池沢氏。
些細な会話ややりとりから徐々に近付く距離。芽生える小さな想い。
そんな二人の1年間を月ごとにおっていく12ヶ月分の小説、&二人のその後の漫画(13頁)を初のエロ!でおおくり致します、同級生本です。
因みに健二さん視点でございます。
そんなSW本6冊目です。
※こちらはR指定な本のため、18歳未満の方はご遠慮願います。

四月
都内にある久遠寺高校の三年生のとある教室。
少し草臥れた黄色いネクタイは緩く、不格好ではあるものの、それを気に留めることもなく、小磯健二は国語のノートを閉じた。
休み時間を告げるチャイムに、教室が一気に騒がしくなる。
「なぁ、健二聞いたか?」
後ろの席から掛けられた声に、健二は振り返る。
この久遠寺で出会い、今まで同じクラスで同じ物理部で同じバイト仲間でもある親友――佐久間敬が、眼鏡の奥から上目遣いで自分の顔を覗き込む。
「何が?」
「ウワサの転入生情報」
あぁ、と声を漏らし、健二は佐久間の方へと体を向け直した。
「みんな言ってるよね」
「みんな、つーかほぼ女子な」
頬杖をついた佐久間が投げ遣りに答える。
このクラスに転入生が来ることを聞かされたのは、入学式後のホームルームであった。本当は入学式にも出る予定であったのだが、諸事情で少し延びるとの担任からの連絡があったのだ。
「ガチで美形らしいぜ」
何故か得意気に話す親友に、へぇ、と声を漏らす。それで女子が噂していたのかと納得し、未だに誰にも座られていない空席を眺めた。
「何その反応。薄っ」
「いや、だって…」
「まぁ確かになぁ。美少女ならともかく」
言いながら、佐久間もその空席を眺める。
「ちょーイケメンでスポーツ万能で頭もキレるらしいぜ」
ムカツクほど羨ましい三拍子だな、と零しながら、佐久間はその視線を健二へと戻した。
「長野だっけ?」
「いや、どっから出たその情報。名古屋だよ名古屋」
「あ、そうなんだ」
そうだよ、と佐久間は呆れた顔を向ける。
しかし情報を得たところで、所詮自分たちにはあまり係わりもないとお互いわかっていたし、案の定情報を得る度に、その存在はますます懸け離れていくように感じた。
一年間同じクラスメイトになろうと、皆が仲良くなるわけではない。きっと挨拶程度で終わる女子と似たり寄ったりの係わり方しかないだろうと健二は胸の内で思う。
しばらくして休み時間終了のチャイムが鳴り、クラスメイトたちがぱらぱらと席についた。
「ま、俺たちにはカンケーないけどなぁ」
そう呟いた親友に相槌を打ち、数学の教科書を取り出したところで教師が現れ、四時間目の授業が始まる。
その時ふと、健二が窓の外を視界に入れると、青空の下、桜の花びらがひらひらと舞っていた。
今日は幾分暖かいため窓が少し開いていたが、健二の視界の中、その一枚が風に乗って入ってきた。
それはくるくると、まるで踊るように回りながらゆっくりと自分のもとへと近付いてくる。
―――あ。
追っていた視線の先が、丁度開いていたノートの上に舞い降りた。
小さな淡いピンクの花びらを、健二はそっと指で摘むと自然に顔が綻ぶ。小さな小さな幸運の訪れに、胸の内がほんのりと温かくなる。
―――何か良いことあるのかな。
現金だと思う反面、小さな期待を乗せてしまえば捨てることなど出来ず、その柔らかい花びらを数学の教科書の一番後ろのページにそっと挟み込む。
これから一年使われるその教科書は、他の教科書と比べ、最も綺麗なままで終わるのだ。それをわかっている健二は、一番綺麗に保存出来るのではないかという思考で、それをパタリと閉じ、今行われている授業のページへと戻る。
そして顔を上げ、黒板に書かれた数式を見た瞬間、脳内に導き出される答。人よりも長けたその能力と知識が在るにも係わらず、健二は真面目に話を聞く。健二にとっては数学に触れられること自体が幸福なのだ。
既に切り替えられた頭の中は、先程の花びらのことも転校生のことも存在していなかった。
そんな中、風に乗って再び桜の花びらが教室内に入ってくる。
健二にも、他の誰にも気付かれることなく、それはくるくると回り、唯一の空席である机の上にゆっくりと舞い降りた。
五月
「転入生を紹介する」
騒ついた教室内――と言えたのは、担任と噂の転入生が入ってくる前で、今はまるで水を打ったような静けさである。
クラスの全員がその転入生を呆然と見つめる姿に、男性担任は苦笑しつつ言葉を続けた。
「みんなも知っている通り、一ヶ月おくれだが、今日からこのクラスの仲間になる。――池沢」
教壇の前に佇む彼は、真っ直ぐ前を向いているものの、誰と視線を合わせるわけでもなく、ただじっと空を見つめていた。
その容姿は噂以上で、むしろ超えていて、誰も声が出せない。日に焼けた健康的な褐色の肌に、すらりと伸びた身長。手足は長く、筋肉質ではないが、肩はしっかりとしていて、何かスポーツでもやっているのではないかと連想させる。
しかし一番の特徴は、その鋭く惹き込まれてしまうような強い眼差し。黒く長い前髪で右目は隠れてはいるものの、それは充分に伝わってくる。
異常な静けさの中だったせいか、後ろから、うわぁ、と小さく漏らした佐久間の声がはっきりと聞えた。
「…池沢佳主馬です。よろしくお願いします」
見た目通りの声、と誰もが思ったであろう、その声には艶があり、低い声色が耳に心地よい。
健二も例外なくその声に聞き惚れていたところで、周りからぱらぱらと拍手が起こり、慌ててそれに加わる。
結局彼は、誰も視界に入れることなく、にこりともせず、無表情なまま示された席へと座った。
クラスで唯一の空席が埋められたというのに、その違和感は以前よりも増したように感じられた。
転入生、容姿端麗と注目が集まる中、当人の彼の周りはいつも静かだった。もちろん嫌われているわけではなく、男女問わずクラス問わず彼に話しかける者はいるものの、どうしても『独り』という印象が強い。それは彼の素っ気ない態度だったり、冗談やくだらない話で笑うことが憚られる落ち着いた雰囲気のせいもあった。
特に数人の女子の忙しない話し方が苦手なのか、当初の質問攻めにはとても嫌そうに眉間に皺を寄せていた。
そんな近寄りがたい彼と、健二はまだ一言も口をきいていない。しかしそれは健二だけではなく、クラスの半数がそうであった。
転入してきてから三週間、ようやく彼の人となりがわかってきたクラスメイトたちは、その距離を上手く掴みつつ接してはいたが、未だ彼の微笑ですら、誰も見たことはなかった。
六月
身体測定のため、体育着姿の生徒に混じり、健二も自分の診断用紙を覗き込む。
「健二くんは今年も変わってませんねぇ~」
一緒に覗き込んでいた佐久間がおどけたように言い、それに勢いよく健二は顔をあげる。
「変わってるよっ、伸びてますっ、ちゃんとっ」
「高だか1センチだろ。俺3センチ~アップっ!」
得意気にピースサインをし、カッカッカッ、と笑う佐久間を健二は睨みつける。怖くありません~、とにやける親友の隣で大きく息を吐いた。
止まってはいないのだろうが、伸びの少ない己の成長に、この先些かな不安を感じた。
「あ、健二、俺便所。先行ってて」
しばらく歩いたところでそう告げた佐久間は、診断用紙を健二に手渡した。
はいはい、と受け取り、ひとり歩いていた健二の耳に、思い掛けない声が掛かる。
「小磯」
艶のある声色に驚き、呼ばれた名が一瞬誰のことかわからなかったため、振り返るのに少し時間が掛かった。
「……え?」
そこにいたのは、一ヶ月以上経って初めてきちんと向き合う転入生の彼―――池沢佳主馬。
見下ろしてくる静かな漆黒の瞳に、自分の名を知っていたことに驚きつつも、健二は緊張で顔が微かに強張る。
同じ男でも見惚れてしまうその容姿に、既に逃げ腰になってしまうのは仕方のないことだろう。
「い…けざわくん?ど、どうしたの…?」
あまりにもぎこちなくなってしまい、失礼だっただろうかと思うも、もう遅い。自分に何の用事なのかと、健二は恐る恐る見上げた。
しかし佳主馬はそんな健二の態度を気にも留めず、これ、と手にしていた紙を手渡してきた。
疑問に思いつつ、そのまま用紙を受け取ると、そこに自分の名が記されてたことでようやく気付く。
慌てて手にした紙を見ると、それは親友の診断用紙のみ。
「あっ、ごめん、ありがとう…」
落としていた自分の用紙を拾ってくれたのだと納得し、話し掛けられた理由に胸の内で息をつく。
そんな小さな遣り取りが終わり、再び顔を上げても、佳主馬は未だ目の前にいて疑問に思う。直ぐに去るものだと思っていたのに、相変わらず無表情で彼は自分を見下ろしていた。
「えっ…と…」
他に何かあるのだろうかと不安になる。それとも自分が立ち去るべきなのだろうかと目を泳がせたところで、彼の形のよい薄い唇が動いた。
「あんたさ、痩せ過ぎじゃない?」
え、と思わず声が漏れ、言われた意味を理解したところで、顔が一気に熱くなる。見られたであろう診断用紙の内容に、女子でもないのに無性に恥かしくなり、赤く顔を染めながら健二は俯く。
彼のように素晴らしい成長を成した者にとっては、標準にも満たない自分など中学生のようだろう。
「…すみません…」
鍛えていなくて、と内心で付け加えて小さく呟くと、彼はその瞳を少しだけ開いた。
なにそれ、と言いながら緩まれる口元に、釘付けになる。何が可笑しかったのだろうかと思うよりも、初めて見る彼の表情に、健二はただ驚いていた。
通り越していく彼の後姿をぼんやりと眺めながら、手にしている自分の診断用紙に目を落とす。去年と変わらずのコンプレックスでもある体重表示の横には、『低体重』との判子が黒々と押されている。
再び視線を上げ、佳主馬がいなくなった方向を視界に入れると、健二はがっくりと肩を落とした。
つづく
以上が今回の本のサンプル文となります。
身体測定って…6月じゃないような…とか、そんな感じだったっけ…?とか、そんな疑問が他の月にも多々ありますが、それはスルーしてやってくださいませ。